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第八話 ルールの数だけ戦略がある
「ロン!」「ツモ!」「ツモ!」「ロン!」
店長の反撃が決まりあっという間にバナさんの点数を減らすことに成功した。所詮は天和に気付かない次元の打ち手だ(そんな次元は聞いたことがないが)基本手順がなっちゃいないのである。
そしてむかえた東3局、ミサトの親番。
「ポン!」
序盤にミサトがドラの二萬を叩く。チャンス手だ。しかし、ドラを鳴かせたバナにもそれなりの手が入っていた。それはそうだ。じゃなけりゃ序盤からドラを切ったりしない(と思いたい)。
「リーチイィ!」
バナの5巡目リーチ。それを受けたミサトの手がこれ。
ミサト手牌
八八⑤⑥⑦⑧3456(二二二) ④ツモ ドラ二
タンヤオドラ3テンパイだ。しかし、この局ミサトは⑨を1巡目に捨てているのでフリテンだ。どうする? 12000点の魅力は捨てきれないし、この手にはバナのリーチに現物はおろか安全そうな牌もない。迂回できないなら真っ向から受けて立つ3索切りだろうか? 少なくとも6索切りよりは3索切りの方が良さそうではあるが……。
ミサト
打⑦
「!?」
立番をしていた従業員はそれを見ていた。
(なんだ、この選択は…… どうしてそれを切る。この『ブルーセブン』において常に危険な⑦筒をリーチの一発目に捨てるだと? ちゃんとルールわかってるのか? しかもテンパイならいざ知らず、わざわざノーテンに取るために……分からない。意図はなんなんだろう)
ミサト手牌
八八④⑤⑥⑧3456(二二二) ドラ二
しかし、手牌の見えない上家の店長からしたらこの⑦筒は脅威だった。
(下家の⑦筒切り。最も危険とも言える牌をリーチに一発で押したんだ。この親もテンパイしたと見ていいだろう。リーチの現物すらあやしい。まずいな、最新型の安全牌しか切れなくなった……)
そう考えた店長が選んだ選択は……。
打⑦
「チー」
打3
「「なっ!?」」
ミサト手牌
八八④⑤456(⑥⑦チー⑧)(二二二) ドラ二
「ウッ」
バナが掴んだのは⑥筒だった。
「ロン。12000」
(なるほど、ウチの店のルールが⑦筒は常に超危険牌という特性をよくよく理解した上でそれを利用した戦略を立てたわけだ。⑧筒切りでもいいが⑦筒を一発で捨てたらもっと効果的。どう見ても勝負手テンパイな親に⑦筒を切らざるを得なくなる。それを見越して⑦筒切って⑦筒を食い直す。こんなフリテン解消法があるとはな)
「……プロはすげえや」
「あら、私を知っていたの?」
「もちろんですよ、井川新人王」
「やーね、新人王は昔のことよ。でも、ありがと♡」
「今後の活躍も期待してます」
「了解! ありがとう、がんばるわ!」
麻雀はルールの数だけ戦略がある。旅打ちしてさまざまなルールの店に行っているミサトたちは柔軟な思考で行く先行く先でのルールに合わせた勝ち方を見つけ出し、この日も終わってみれば圧倒的に勝つのであった。
64.第伍話 中野の最速対々二回戦A卓東家 中野雅也南家 飯田雪西家 井川美沙都北家 鳥栖大毅この座順でゲームスタート「ユキ、あなたもトップだったの」「ええ、私だって伊達にミサトの相棒をやってないからね」「私としても鼻が高いわ」 すると中野が黙っていられないという顔で会話に割って入ってきた。「おれも元プロ雀士だ。ただ見ていただけで見せ場も作れずにやられました。なんてわけにはいかない!」「そうよね、期待してるわよ。新人王」「C3リーグ優勝の実力を見せてくださいよ」「ぐぐぐっ! 完全に舐められてるな」「えー? なんでそうなるのよ。私はただ思ったことをそのまま言っただけよ」「まあ、私は若干舐めましたけど。所詮は一般人なのかなって。私たち『牌戦士』とは覚悟も違うだろうし」「ちょっと、ユキ! 失礼よ、謝って」「いや、すいません。でもせっかくの対局だからもうちょっと中野さんのカッコいい所見てみたいなと思って。中野さん達だってこのまま終わったら不完全燃焼じゃないですか? とは言え、花火大会は行きたいからもう半荘やる時間はないし」「焚き付けてくれたってことね。オッケー…… おれもそこまでされてジッとしてるような男じゃない。見せてやるよ。新人王の本気をさ!」「待ってました!」 ユキの挑発を受けて中野雅也のハートに火がついた。そこからはリーチに対しても怯まず押し返して、それでいて本命だけは押さえて。上手いことテンパイさせた。
63.第四話 これが勝負師 結局、曽根がアガリをとれたのは初めのハネマン一回だけでありその後はみんなして曽根をボコボコにした。プロ3人でよってたかってフルボッコである。「わかったわかったわかりました。格の違いはもうわかったから、お願いだからこの辺でやめて!」「こう言ってるし、中野さんはもうアガるの禁止でよくないですか」「よくねーだろ! 今おれ三着目だろうが」南3局曽根の最後の親番中野 29800点トキオ33100点曽根 3600点ミサト33500点 3人は三つ巴だった。なのでここで軽くアガリを取ろうとか考えない、むしろこの局。ここで決着をつけるように手作りするのがプロというものだ。それを3人とも分かっているのでこの局は誰も鳴かなかった。そして……「リーチ!」「リーチ」「私もリーチよ」 親の曽根以外の3人が一気にリーチ。曽根は親番ではあるがさすがに無理なものは無理なため『もうお手上げ』とばかりに現物を力無く放る。「ツモ」ミサト手牌三三八八八①②③11666 1ツモ 手を開いたのはミサトだった。「四萬切りリーチで三萬と1索のシャボ!」「3軒目のリーチなのにあえてツモり三暗刻なの?」「三萬が山にありそうだったからね。まあ、引けたのは1索なんだけど。それに、アナタたち強いからここで決着つけておくのが最善策だと思ったの。はい、2000.4000で私の勝ちね」 チャン
62.第三話 ミオちゃんの配信 トキオはダブ南を鳴いて打2索とした。トキオの捨て牌にはソーズが全く出ておらず、この2索が初めてトキオから出たソーズだった。 ジュリはトキオの手をチョロっと見に行ったトキオ手牌二三⑤⑤赤⑤44赤567(南南南) ドラ7(ポンテン8000かー) トキオは既にダブ南赤赤ドラの一-四萬待ちポンテンを入れていた。しかしトキオの仕掛けに対して一-四は危険牌であるので現状はすんなりアガれるか分からないな、とジュリはトキオの手を見ながら思った。するとミサトの手から4索が切られた。「ポン」打赤⑤(は?)トキオ手牌二三⑤⑤赤567(444)(南南南) ドラ7(え? 手を短くして、使えるドラを捨てて、待ちを変えることもしないってどういうこと?) 見てる方が混乱するような鳴きだった。しかし、これは対局者にしか分からない魔法なのである。曽根打一「ロン」「えっ!?」パタントキオ手牌二三⑤⑤赤567(444)(南南南) ドラ7「満貫!」「使える赤を捨ててる……?」「メンゼン祝儀のルールだからね。そこのルール表の通りにやるなら」 たしかに、この麻雀ルームは昔はフリー雀荘だったのか店のルール表
61.第二話 対決! 新人王vs新人王 川原田朱里(かわはらだじゅり)は中野雅也(なかのまさや)の有能な右腕だ。 彼女は言われるであろうことを先読みして動けるタイプの人間なので、あれよあれよと事が進んでいく。気が付いたら全てのサイドテーブルにキンキンに冷えた麦茶まで置いてある。A卓東家 中野雅也(なかのまさや)南家 金田朱鷺子(トキオ)西家 曽根博一(そねひろかず)北家 井川美沙都(ミサト)B卓東家 金子水景(ミカゲ)南家 鳥栖大毅(とすだいき)西家 飯田雪(ユキ)北家 鹿野沙織(しかのさおり)立会人 川原田朱里「ジュリはおれたちの勝負を見届けてくれ。おれが本物のプロ雀士だったって所を見せてやるから見逃すなよ」「わかりました」「「よろしくお願いします!」」 各卓ゲームを開始した。 A卓は35期新人王と36期新人王の対決だ。中野は麻雀プロを辞めて4年になるが一度は新人王にまでなった実力の持ち主だ。そう簡単には勝たせてもらえないだろうとミサトは警戒して挑んだ。「えー、みなさんやりながらでいいんで聞いてください。今回の勝負はチーム戦です。我々『カキヌマホールディングス』対『井川美沙都プロ率いる女流雀士チーム』はまず一回戦をA卓B卓に分かれて対局します。その結果で例えば課長が3位で曽根が4位だとしたとしたら二回戦A卓は課長B卓は曽根というように同卓した同じチームの相手とで順位が上の方が二回戦はA卓に、下の順位の方がB卓に行き決勝を行う半荘2回勝負です。終わったらチームトータル得点を計算して負けたチームがこの麻雀ルームの場代を持ちます。また、個人優勝した方にはここの売店で1番高いお
60.ここまでのあらすじ ミサトとユキはアクアリウム静岡店でゲストに呼ばれ、18卓ある店舗を見事期間中の3日間毎日満卓にした。2人は自分たちコンビを『牌戦士 三郷幸』と名乗る。牌戦士たちの旅は続く、次は一体どんな出会いがあるのやら――【登場人物紹介】井川美沙都いがわみさと主人公。怠けることを嫌い、ストイックに鍛え続けるアスリート系美女。金髪ロングがトレードマーク。通称護りのミサト日本プロ麻雀師団所属獲得タイトル第36期新人王第35期師団名人戦準優勝など飯田雪いいだゆき井川ミサトの元バイト先の仲間でありミサトのよき理解者。ボーイッシュな髪型、服装をしているが顔立ちはこの上なく女の子で可愛らしい、そのギャップが良い。金田朱鷺子かねだときこ新宿でゴールデンコンビと言われる2人組。生物学的には女だが、見た目は美男子で『トキオ』の名で通っている。通称TKOのトキオ。麻雀真剣師団体ツイカの1期生。新宿ゴールデン街で店をミカゲと共同経営している。金子水景かねこみかげトキオと2人でゴールデンコンビと言われる一流雀士。通称隠密ミカゲ。麻雀真剣師団体ツイカ1期生。新宿ゴールデン街で店をトキオと共同経営している。 普段は分厚いメガネをしててダサめな姿だが、メガネを外しコンタクトにするとすごく美人。その4第一話 偶然の再会&n
59.サイドストーリー3 約束後編 彼女が開いて連絡先交換をしようとしてる携帯電話の待ち受けは『松潤』だった。僕は自分で言うのはちょっとアレだが松潤に似てると言われてきた。それは10回20回程度のことではなく、「ありがと、もう分かったよ」と言いたくなるくらい色々な人から言われることだった。つまり、その待ち受けを見ることで本当に僕の顔が好みなんだとわかった。 そして、この子のことは僕も好きになりつつあった。いや、好きだった。連絡先の交換はしたい。付き合いたい。また、この子に絡みつくように抱きしめられたい。そういう気持ちになった。一瞬だけど。 でも、僕は彼女持ちだ。裏切りたくない。かと言ってこの子がすんなり引き下がる言葉ってなんだろう。「連絡先交換くらい良いじゃない」と言われそうだ。その通りだとも思うけど、ここで交換したらそのままお付き合いに発展する気しかしなかった。自分のことは自分が一番わかる。「……もう一度会ったら」「え?」「僕は多分この店にはもう来る機会はない。それでも偶然どこかであなたともう一度会ったら。その時は運命だと思って連絡先を交換すると約束する」「わかった、約束よ!」「約束だ」 ◆◇◆◇ 6年後 僕は渋谷にいた。 今から帰ろうと駅前の大森堂書店に少し寄り道してから交差点に向かう時。とっても素敵な笑顔でベビーカ